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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

山寨には酒や肉もうんとあるに違いないぞ。奮えや者ども」

しかし、再び山へ馳け入ると、東山の音声はバッタリ消えて、かえって反対な西山の一角にチラチラ数知れぬ松明の火が見える。

「さてはやはり、賊は西か」

と、昼の一道をとって引っ返せば、さらに思わぬ高い所に炬火が見えて、ここ西山の山ふところは、ただ暗々黒裡の闇でしかない。秦明は切歯した。怒髪をサカ立て、毛穴は血の汗を吹きそうだった。

「兵卒、あの高い所へ行く道はないか」

「南へ迂回すれば本道があるそうですが」

「さてはそっちが奴らの大手口とみえる。ぜひもない。南へ廻れ」

そこで東南路へ向ったが本道へ出るにもさんざんな苦心があった。すでに陽はとっくに暮れている。ぼやっと黄色い月があった。月光をたよりにやっと大道を見つけだし、折々、暗がりから射てくる伏勢の矢風だった。無二無三それを突破しながらすでに登りつめること数十町、ふと仰ぐと、やっと頂上へ出たか平らかな岩盤とかなり広そうな平地がある。

頂上には赤々と幾つもの篝が燃えさかっているらしい。賑やかな笛や太鼓の音はまるで遊興の場のようだ。しかも何事ぞ! と秦明の怒気はいまや頂点に達していた。