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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

夢に啼けば 粧涙は紅く 闌干たり

宋江は、はっとした。満座のうちからすすり泣きが聞える。鬼をもひしぐようなのがみな顔を濡らしていたのである。そうだった。彼らにも本来の情涙はあったのだ。また親があり情婦があり子がありいろんなきずなもあったのだ。それへの何かに触れる絃と詩とについ真情が流れ出てしまったものだろう。

――いや、ひとごとではない、宋江もまたそっと眼じりを指で拭いていた。

朝。――掲陽鎮の埠頭には、ゆうべの顔がのこらず、宋江のために、送別の惜しみをわかちあっていた。

「どうか、おからだをご大切に」

ことばは世のつねのものだが、万感の真情と尊敬がこもっている。思い思いな餞別物も、両手に余るほどだった。

やがて船が出る。かなり巨きな船だ。蓆帆に風が鳴り、揚子江の黄いろい水が、瑶々とその舷を洗い、見るまに、手をうち振る江岸の人々も街も小さくうすれ去った。

その日のうちに、舟は江州に着く。護送の端公も、ここへ着くと急に、護送小役人の顔つきになった。もちろん宋江の首カセは厳重に篏められ、公文の手つづき、身柄の引渡し、奉行所や牢城などの認知証もうけとって、これはすぐさま済州へ帰って行った。