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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
それも陸上でなく、小舟に、水棹さし、江の岸を先廻りしていたのであった。
「やいっ、黒旋風とかいった奴、逃げるのか、ざまはねえな!」
「何ッ」
あっと思った瞬間だった。宋江にしろ戴宗にせよ、止める間などはありはしない。李逵は小舟の方へすっ飛んで行き、なにか二た言三言、悪罵を戦わせていたかとみるまに、
「うぬっ」
と、相手の舟のうちへ跳びこんでいた。
「よしきたっ」
待っていたとばかり、舟の中の男は両手をひろげた。
李逵の方でも、勝負腰を挑んでみせたが、何しろ一歩も近づけなかった。なぜなら艫の男はその両脚で巧妙に、
「それ。……どんぶりこ、どんぶりこ」
と口拍子に合せて、小舟を左右に大きく揺りうごかし、舟はまるで風濤に弄ばれる一葉の枯れ葉に似ていた。しかもぐんぐんとそのまに岸から揚子江のただ中へと離れて行くのである。
たまらなくなって、李逵は、
「やい魚屋。おれを恐れたな。男らしくもねえやつだ」
「ふん。言ッたね。さあ来い」
「そんな足拍子はやめて、てめえからかかって来い」
「こころえた。かたづけてやる」
言下に、男は片足立ちとなって、その体を、舟の外へ斜に描いて見せた。