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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

壁は宋江の筆禍を呼び、飛馬は「神行法」の宙を行くこと

ひとつには済州から江州送りとなったときの、長途の疲労が、今にして一度に出たのかも知れなかった。

こうしてやっと、散歩を思うようになったのも、二十日ぶりだ。もうすっかり体はいい。季節さえ初夏の風に変っている。

「……さて、意外にご無沙汰したものだ」

友恋しさに、彼はその日、城隍廟の地内の観音庵に住む戴院長を訪ねてみた。

が戴宗は留守だった。

「張順の家は」

と考えてみたが、魚問屋の忙しい身だし、おそらくこんな上日和では江の上か城外の市場だろう。また李逵ときては、賭場やら牢番溜りやら、いつも居る所さえわからぬ男だ。

しかし独りも淋しくはない。それに病後の快は、おのずから微吟の口笛を唇に誘ってくる。うッすらと快く肌は汗ばみ、眼は郊外の新翠に洗われ、ちか頃にない空腹感もうれしかった。

「おや……酒旗が見える。……おう小酒屋ではない。すばらしい酒楼ではないか」

近づいてみれば、酒旗には「潯陽江正庫」とみえ、また墻門の簷には、蘇東坡の書の板額に、

潯陽楼

の三文字が白彫りにされていた。

「ああ、これが江州に名高い潯陽楼か。あいにくと一人だが、まま、見晴らしだけでも楽しもうか」