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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

あの香具師を、貴公はどこかで知っているのか」

「知ってるどころじゃありません。少年の頃、村で棒の手ほどきをうけた打虎将ノ李忠です」

そのとき、香具師の李忠の方でも、気がついていた。

「やあ、坊っちゃんじゃありませんか」

「やっぱり師匠だったね。何とこれは珍らしいところで」

「師匠なんて呼ばれちゃあ赤面します。お宅さまには長い間、居候していた厄介者の李忠に過ぎない」

魯達が、横から口をはさんだ。

「そんなことあ、どうだっていいや。これから飲みに行く途中だ。貴様もこいよ」

「待ってください。いま見物へ膏薬を配ったところだ。その銭を集めてから、お供をする」

「なんだい、じれッたいな。効きもせぬ膏薬などを売りつけやがって。早くしろよ」

「まあ待ってくださいよ、こっちは商売、先はお客、そう手ッとり早くはいきません。なンなら、先へ行って下さい。坊っちゃんも、提轄さんも」

「こらっ、見物人ども」と、魯達は、たちどころに憲兵づらを作って。「――横着顔して、すッとぼけるな。はやく香具師へ銭を投げてやらんと、ぶん殴るぞ」

毛の生えている魯達の拳骨を見ては、もうおしまいだ。銭などはビタ一文も降らず、見物の男女は、クモの子みたいに一ぺんに逃げ散ってしまった。