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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
卓はすべて庭園に出され、まさに星夜の盛宴というべき光景。そして慨歌たちまちに、
「奸人黄文炳をただおくべきでない……」
と、なった。
もと膏薬売りの浪人薛永は、かねての恩返しはこのときと、
「まず、てまえを無為軍の町へ、探りにやって下さい。いささか地理人情にくわしくもあり、知人もいる」
と、物見役を買って出たので、即座に一同は、
「じゃあ、行ってくれ。すぐにも」
と、彼へ任命の拍手を送った。
二日後である。薛永は一人の小男を連れて帰って来た。彼の紹介によれば、この小男は、洪都の生れで、通臂猿という妙なアダ名があり、本姓名は、侯健ということである。
「なんで、この人を、連れて来たのか」
宋江がたずねると、薛永がニヤリと答えた。
「職は、裁縫師なんですよ。針と糸を持たせれば、神わざみたいな技能があります」
「ほ。裁縫師とはめずらしい。が、なんのために、その裁縫師を?」
「じつは、ついこの春まで、黄文炳の家庭へ、お抱えの裁縫師として住み込んでいました。いまでは馘になったのですが」
「では、内部の事情に詳しいな」
「それで連れて参ったのです。どうぞこの侯健から詳しいことはお聞きとりくださるように」