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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
侯健のはなしには、聞くべき価値が多かった。
黄文炳の悪評はかくれもないが、その兄の黄文は、土地の人にも、
黄仏子(ほとけの黄さん)
と別名でよばれているほど、善人の聞えが高いという。
まいど、貧民には情けぶかく、孤児を養い、公共の橋を自費で架け、風害水災のたびには、身をかえりみず、財を注ぎこむなど、なにしろ、弟の悪文炳とは、ひとつ母親の腹から出たものとは思えないほどな違いだとある。
そこで、その黄仏子の弟ながら、悪文炳のことはみな、毒蜂刺と町でも呼び、男女の召使い四、五十人はいるが、一人とて、文炳を心から主人と敬っている者はないともいうのであった。
「そんなわけなんで……」と、裁縫師の侯健は、おちょぼ口をつぼめて言った。「私と薛永さんとが、ぶらりと、雇人部屋へ遊びに行った振りして、みんなを笑わせ、その晩、野菜園の木戸から同勢を引き入れれば、なあに、見かけは厳重な構えでも、あんな屋敷へ踏み込むのは、何の造作もありませんよ」
「が、兄の文の住居は」
「大路をへだてて、弟の文炳の邸宅とは、すぐの斜向いです」
「文は善根を積んでいる。そのような善人に禍いをかけてはなるまい」