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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

しかしその暁早くには、すでに大小七隻の怪船は、霧ふかい江上へ漂い出ていた。――事は果たしていたのである。――がただ一つ、最大な目的を逸していた。当の怨敵黄文炳は、その夜、江州奉行所か蔡九の官邸かにいて、無為軍の家にはいず、ついに討ち洩らしていたのであった。

大江の流れは奸人の血祭りを送り、

梁山泊は生還の人にわき返ること

対岸の火災という言葉はあるが、黄文炳にとれば、対岸無為軍の火災は寝耳に水、驚倒して気も失いかけたことだろう。ひとごとどころか、わが家が焼けたという取沙汰だ。

彼はあたふたと、蔡九へいとまを告げ、自家用の美船で、江を渡って行ったが、そのまも心は空だった。

強欲、残忍、吝嗇、佞奸、あらゆる悪評を冷視して一代に蓄えてきた金銀財宝、倉に充つる財貨は、いったいどうなったことやらと?

すると突如、水を切って鳴った鉄笛の一声が、彼のきもを冷やした。どこからか漕ぎ寄って来た三そうの小舟を見たからである。あッと、文炳は腰を抜かした。近づく舳に戴宗を見たからだった。もひとつの小舟には二つのまさかりを持った黒旋風が見える。

「やっ賊だ、引っ返せっ」

しかし、もうまにあわない。