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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「おや? おめえは金沙灘の見張り茶店の亭主、旱地忽律の朱貴じゃねえか」

「叱ッ。……ば、ばか。人が聞くじゃねえかよ。いま、なにを馬鹿面して見ていたんだ」

「そう馬鹿馬鹿と言いなさんなよ。ここらは何年ぶりか、見るもの聞くもの、なつかしくってさ」

「ちっ。阿呆もほどにしろ。あの高札には、宋江を捕えた者には銭一万貫、戴宗なら五千貫、李逵は三千貫と、てめえの首のお値段までが、触れ書になっているんだぞ」

「へえ、俺のが一番安いのか」

「そういうおめえだから、宋先生も心配なすって、この朱貴をお目付役に、おめえの後を尾行させたんだ。……ま、立ち話も物騒だ。そこの店へ入りねえ」

「冗談じゃねえ」と、李逵は自分の鬼門のように尻込みした。

「――そこは居酒屋じゃねえか。うむむ、たまらねえ匂いがしやがる。罪だよ、あにき」

「まあいいから入れッてえに」

朱貴はずっと奥の小部屋へ先に入ってしまった。酒肴の註文も馴々しい。そして独りでチビチビ飲み初めた。李逵は汗拭きの布を出して、鼻と口を抑えていた。

まもなく、店の亭主が、あいさつに来た。それが朱貴の弟、朱富だったのである。李逵にしても、同郷人なのですぐ打解けた。