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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
ただ打解け難いのは、みすみす目の前にある酒、杯だ。
「なあ、あにき……。お目付のあにきが見ている前だけなら、ちっとぐらいは、いいだろうじゃねえか。俺アもう目が眩みそうだ、死んじまいそうだよ。飲ましてくれよ」
朱貴は吹き出してしまった。聞いてはいるが、李逵の酒くせも猛勇ぶりも、彼はまだほんとには知っていない。で、つい同情負けして、
「ちくと飲きねえ、ここだけだぜ」
と、杯を与えてしまった。
舌つづみを打って、李逵は目を細めた。もう自分でも歯止めがきかない。もう少し、もう少しで、夜も丑満の真夜半ごろまで、ついつい話と酒に興じてしまった。そして亭主の朱富にもせきたてられて、やっとおみこしを上げたのは、五更(夜明けがた)の残月が淡く町の屋根に傾いていた頃だった。
「だいじょうぶか李逵。足もとは」
「へン、これっぱかしの酒が何でえ。笑わしちゃあいけねえよ。おっと、笠を忘れた」
「それ見やがれ。ま、手を出すな。かぶせてやるから」
「おふくろに会ったら何ていやがるだろうな。ああ、あしたの晩は、おふくろのオッパイに頬ッぺたをつけて寝るかな。……ははは、あばよ。あにき」
「おいおい李逵。