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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

こんなうちにも、曹の屋敷の外は黒山の人だかりだった。虎見物にと押しかけてきた村々の老幼男女は家人の制止もきかばこそ、内門の墻の辺まで混み入って来て。「あれだあれだ。沂嶺の大虎二匹、子虎二匹」「なるほど凄いもんだぞ」「いや凄いのは、ただ一人で四匹の虎を退治なすった人間の方だよ」「その人間様は、どこにいるだか」「あのお方らしいて。あれあれ、曹旦那のそばでお酒を呑んでいる。あの色の黒い豪傑がそのお人じゃげな」などと、いやもうまるでお祭り以上な弥次馬騒ぎ。

と、その中に交じっていたのが、かの草簪を挿した李鬼の情婦であった。つい昨日、山の居酒屋で見たばかりの顔だし、自分の情夫を殺されたあげく、行李の底の物まで盗まれた恨みも深い。その李逵の姿であったから、

「あっ、あいつだ」

と、一ト目見るやいな、すぐ名主の所へ密告に走った。驚いたのは村名主で、かねて布令の廻っている江州荒らしの大逆人で首に三千貫の賞金が懸かっている梁山泊の黒旋風が、村に現われたとあっては一刻も捨てておけない。

すぐ使いをやって、曹旦那を呼び、かくかくと耳打ちすると、曹もまた仰天して、

「えっ? ではあれが、お尋ね者の黒旋風だったのか。