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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
戴宗は、わざと控えて、形勢をみていた。そして、
「不義、非道、弱い者いじめ。そんな跋扈をゆるさぬ街の鉄火の意気はまだ廃っていなかったな。……おお悪軍人のかったい棒め、とうとう、不ざまな恰好で逃げ出してしまったぞ。あっ、人斬り楊雄がこんどは追ッかけて行く。薪木売りも一しょになって」
いつかあたりの見物人も散らかって、あとには薪木売りの薪木の束だけが残っていた。
「楊林、そいつを持って、向うの酒屋で飲んでいよう。そのうちにあの若いのが商売物を取りに返ってくるにちがいない」
案のじょう、やがて薪木売りは戻って来た。
それを酒屋へ誘い入れて、戴宗は彼の侠気をたたえたり、その身の上などを聞きほじりながら、心ひそかに、
これもまた頼もしそうな。
と、はや一思案を抱いていた。
「そうですかい。……金陵(南京)のお生れで、そんなに諸国を歩きなすったか。そして、馬買いの叔父御に死なれて、生業を失ったとはいえ、薪木売りとはまた、お若いのに、思いきったものに成ンなすったな」
「ええ、資本もありませんし、根ッからの鈍物。死に別れた叔父貴からも、今みたいな時世に、おまえみたいな馬鹿正直じゃあ生きてゆけねえぞッて、よくいわれていた私ですから」