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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
献斎の礼、茶湯の供養。そして一座首十坊主がいっせいに歌詠讃揚するお経の仰々しさ。それが、おごそかなればなるほど、石秀にはくすぐったかった。――と、そのうちに施主の巧雲が、楚々と、前へすすんで香を拈じる。誠しやかなその合掌の長いこと。それと白襟あしのなまめかしいこと。たちまち、お経はみだれてきた。どの坊主の目もみな巧雲の乳だの小股のあたりを愉楽想像しているらしい。いや香よりも匂いのたかい女脂の薫がふんふんと如海和尚の打振る鈴杵もあやふやにし、法壇はただ意馬心猿の狂いを曼陀羅にしたような図になってしまった。
たそがれ、やっと終って。
「どうも皆さま。こんにちは、ありがとうございました。さだめし、仏もよろこんで、成仏得度したことでございましょう」
巧雲のお礼の辞につづき、石秀、潘じいさん、召使が先に立ち、
「どうぞ、あちらのお席へ」
「ゆっくりお斎なと召上がって」
と、別室のほうへみちびいて行く。
如海は、いちばんあとから、上気した青い頭に湯気をみせながら歩いていた。すると側へ寄り添って行った女が、そっと匂う手を袖から渡した。
「師兄さん。お汗が……」
あたかも、舞台を下りてきた俳優と、贔屓の女客のごとき観がある。