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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

汗にぬれた手を、巧雲は、さもいとしそうに、それで自分の唇をつつむ。紅蘭に似るその瞼にもいっぱいな春心をいわせながらである。

お斎は一刻。やがて般若湯(酒)もすっかり廻ると、また祭壇へ出て宵のお経。また休息、またお経。明け方ぢかくまでそれがつづく。

次第にお経は乱調になる。坊主もみんなへべれけなのだ。猥談猥語も出かねない。巧雲はおとりもちを人にまかせて、いつか小部屋の暗がりに如海をひきいれて口説していた。

「ねえ師兄さんてば。……おちつかないのね」

「だって、檀家先へ来て」

「あらいやだ。水くさい。わたしそんなつもりじゃありませんのよ。わからない」

「どう? ……。なにを」

「まあ、憎い。わかってるくせに。血盆経の願ほどきに、きっと行きますわよ。いいこと」

「しかし、昼にちょっとみた、あの義弟さんとかいう若いの。あの眼が気になるね」

「ち、あんなの、何でもありゃしない。いわば居候も同様なのよ」

「楊雄さんだって、そうそういい顔ばかりもしていまい」

「だいじょうぶ。うちの良人ときたら、お勤め第一の道楽なし。それにわたしのいうことならさ、なんだってもう」

「そんないいご主人があるくせに、どうしてこの身のような者へ」