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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「覚えがあるな。知らぬとはいえまいな。巧雲」

「か、かんにんして。あなた……あなたとも、一度はあんなにも想い合った仲。後生、それを、もいちど思い出して」

「思い出すからこそ、ゆるせねえのだ。よくも俺の男を泥ンこにしやがったな。また、男と男の義を裂こうとしやがったな。もうこんな物は、てめえの髪には不要な物だ」

と、楊雄は、彼女の珠櫛、金釵、簪などことごとくムシり奪って地へ投げ、その手で腰の剣を抜き払った。

白刃を見ると、巧雲はヒーッと悲泣しだした。そして、遁れ得べくもない縛めをもがき抜いて、半裸の白い肉体に縄目が食い込むばかりムチムチと波打ちもだえた。

「石秀。この刀を君に渡す。ぞんぶんに恨みをはらしてくれ」

「いやだ!」石秀は首を振って。「――いくらこの人が悪婦でも、兄貴の女房、まして自由のきかない女ずれを」

「まだ憐愍を持ってくれるのか。そこは君のいいところか。しかしこんな女を生かしておいたら、後日また、世間で毒をなすのは知れたことだ。よしっ、おれの手でする」

白い刃の切っ尖をつきつけられ、巧雲は髪ふりみだして悲鳴をあげた。足の指を曲げて爪さき立ち、眉をひそめ、喉を伸ばして叫絶する。