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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

しかも古来たびたび、匈奴の南下に侵された歴史の古い痍跡は、今とて、どこかここの繁華に哀しい陰翳を消していない。

「おや、ここでもまた、掲示に人だかりがしてやがる。この辺まで落ちてくれば、もう、よもやと思っていたのになあ」

辻の人混みにまじって、魯達は暢気そうに、逮捕告示と、自分の人相書を眺めていた。

――代州雁門県署、コレヲ告示ス。

渭州ニオケル殺人犯ノ軍籍者、提轄魯達ナル凶徒、コノ地方ニ立廻ラバ即刻、官ヘ速報スベシ。庇護行為ノ者ハ同罪タルベシ。モシ又、上告ノ善ヲ為スアラバ、即チ、賞一千貫文ヲ降サルル者也

魯達のすぐ耳のそばで、声を出して読んでいる男や、杖の上に白髯の顎を乗せている老翁や、心憶えに筆写している書生風なのや、女や労働者や物売りやら、なんとも雑多な陽溜りの匂いが蒸れ立っている。

それを他人事みたいな顔で眺めていた魯達は、

「……お、おい。なにをするんだ、なにを」

しきりに、自分の袂を引ッ張る後ろの老爺を振り向いて、眼にかどを立てたが、

「おや、おぬしは翠蓮の」

「しっ。……ま、こちらへ」

老爺は遮二無二、彼を人なき所まで引っ張っていった。そしてさて、大きな吐息を一つあらためてほっとついた。