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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
「小説公園」六興出版社、1950(昭和25)年新春号~1952(昭和27)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,193 字 · 463 页
自然戯
……御子は、かわいそうなお生れね」
と、自分が、奴隷というあわれな宿命なのをも思わず、しまいには、唇をも、肌をも、惜しみなく与えてくれた――彼女以外には、何もない。
自然戯
北武蔵から、秩父、上野へわたる長い連山の影が、落日の果てに、紫ばんで、暮れてゆく。
小次郎は、まだ、丘にいた。
曠野は、春の三月だった。
土もあらく、風もあらく、水の質もあらく、それと等しく、人間もあらあらとして、野生のままな坂東の天地であったが、さすがに、春の夕ぐれは、余りにともいいたいほど、何事もない。なんのうごき一つもない。
目に見えないほどずつ、陽が沈み、雲の色相が、変ってゆくだけだ。
「御子っ。そんな所に、何して、ござらッしゃる。はよう、おいでなされ、身どもと、一しょに」
また、誰か、呼びに来た。
いずれ、馬舎の馬丁か、浦人の小者かであろうと思い、小次郎は、
「おらあ、行かぬぞ。飯も食いとうない。こん夜は、馬と寝る」
と、ふり向きもせず、いった。
すると、下の影は、丘へ駈け上ッてきた。――手こずらす童よと、口叱言をいうのが聞え、同時に、小次郎の腕は、抜けるほど、力づよく、引ッ張られていた。