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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

幸ひ貴老が見えてから、あの苦しむのが聞えないから……」

「私のその、御経読誦が、いくらか功徳がありましたもんでがしょう。」と、泣くより笑いというのである。

「ああ、どうぞあけ方までに、繰返して、もう一度その経を誦したまえ、絶えず、念じて下さい。私も覚えて念じよう。明日、また明後日、明々後日も、幾度も、本尊の前途を見届けるまでは、貴方は帰さん、誰にも逢わん。」

「宜しい。」

竹永が天井を仰いだ時、金之助も斉しく見たが、例よりは壁が高いと思うと、電燈がすッと消えた。

あわれな声で、

青葉しげれる桜井の、里のわたりの夕まぐれ、

と廊下で繃帯を巻きながら、唐糸の響くように、四五人で交る交る低唱していた、看護婦たちの声が、フト途切れたトタンに。

硝子窓へばらばらと雨が当った。

廊下を馳せ違う人の跫音。

二人は呼吸を詰めた。

電燈が直ぐに点いた、その時顔を見合わせた。

木の下蔭に駒とめて、

とまた聞える。

吻と、といきをつく間もなく、この扉が細目に開いた、看護婦の福崎が、廊下から姿を半ば。

「貴下、お案じなさいました五番の方が、」

二人は肩から氷を浴びて、

「どう、」

「どうした。