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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

三十七

三十七

「(まあ、おめずらしい、)と莞爾したろうではありませんか。方なしの皺になりましたが、若い時は、その薄紅に腫ぼッたい瞼が恐ろしく婀娜だった、お富といって、深川に芸者をして、新内がよく出来て、相応に売った婦人でしたが、ごくじみな質で、八幡様寄の米屋に、米搗をしていた、渾名をニタリの鮟鱇、鮟鱇に似たりで分かる。でぶでぶとふとった男。ニタリニタリ笑っているのに、どこへ目をつけたか、その婀娜な、腫ぼったいのをなくなすほど惚れましてな、勤めをよすと、夫婦になって、資本を注ぎ込んで米屋を出すと、鮟鱇にわかに旦那とかわって、せっせと弁天町へ通う。そこで見張り旁々というので、引手茶屋の売据を買って、山下という看板をかけていましたが、ニタリ殿はますます狂う。抱えの芸妓は、甘いと見るから、授けちゃ証文を捲かせましょう。せめてもの便にした養女には遁げられる、年紀は取る、不景気にはなる、看板は暗くなる、酒は酸くなる、座蒲団は冷たくなる、火は消える、声は出なくなる、唄は忘れる、猫は煩らう、鼠は騒ぐ、襖は破れる、寒くはなる、大戸を閉める、どこへどうしたろうと思う……お婆さん。