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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

十六

年も三ツ、三年越。火難以来ここにはじめてめぐり逢った。柳屋のお夏は二十を越した。脊丈さえ、やや伸びて、楽に上から負わるるように、袖で頸を包んだのである。

もっとも愛吉の身はすくんだから。

十六

「愛吉。」

と直ぐ続けて、肩越に長けた、清い目の横顔で差覗くようにしながら、人も世も二人の他にないものか。誰にも心置かぬ状に、耳許にその雪の素顔の口紅。この時この景、天女あり。寂然として花一輪、狼に散る風情である。

「どうしたの、まあ、しばらくだったわねえ。」

「へい、」とただ呼吸をつくようにいう、悪髪結の垢じみた袷の肩は、どっきり震えた。

一たび母衣の中なる車上の姿に、つと引寄せられたかと足を其方に向けたのが、駆け寄るお夏の身じろぎに、乱れて揺ぐ襦袢の紅。ぱッと末枯の路の上に、燃え立つを見るや否や、慌ててくるりと背後向、踵を逆に回らしたのを、袖で留められた形になって、足も地にはつかずと知るべし。

追っかけて冴えた調子、

「よく来たことねえ、愛吉、」

「へい、」

「逢いたかったわ!」

「へ、」とばかりさえ口に消えた。

お夏はいよいよ爽に、

「懐しいよ。」

といって、その前髪を、ひやりと肩。