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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

かくても頭重そうに、頸を前へ差伸ばすと、駒下駄がそと浮いて、肩を落して片手をのせた、左の袖がなよやかに、はらりと欄干の外へかかった。

ここにその清きこと、水底の石一ツ一ツ、影をかさねて、両方の岸の枝ながら、蒼空に透くばかり、薄く流るる小川が一条。

流が響いて、風が触って、幽に戦いだその袂、流は琴の糸が走るよう、風は落葉を誘うよう。

雲が、雲が、また一片、……ここへ絣の羽織、縞の着物、膨らんだ襯衣、式のごとく、中折を阿弥陀に被って、靴を穿いた、肩に画板をかけたのは、いうまでもない、到る処、足の留まる処、目に触るる有らゆる自然の上に、西洋絵具の濃いのを施す、絵を学ぶ向の学生であった。

広くはあらぬ橋の歩み、麗人の背後を通って、やがて渡り越すと影が放れた。そこで少時立留って、浮雲のただよう形、熟と此方を視めたが、思切った状して去った。

その傍に小店一軒、軒には草鞋をぶら下げたり、土間には大根を土のまま、煤けた天井には唐辛。明らさまに前の通へ突出して、それが売物の梨、柿、冷えたふかし藷に、古い精進庖丁も添えてあったが、美術家の目にはそれも入らず。

店には誰も居なかった。