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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

片頬を襟に埋めた時、

「…………」

腕組をした、しかみッ面。げじげじのような眉が動いて、さも重そうな首を此方に捻向けんとして、それも得せず。酒の汚点で痣かと見ゆる、皮の焼けた頬を伝うて、こけた頤へ落涙したのを、先刻から堪りかねて、上框へもう出て来て、身体を橋に釣るばかり、沓脱の上へ乗り出しながら、格子戸越に瞻った、女房が見て呆気に取られた。

時にお夏の背後へ、密と寄ったは、乗せて来た車夫で。

トもじもじ立迷ったが、横合から、

「お傘を、お嬢様。」

「あいよ、」

その時袖が放れたので、愛吉は傍に人のあるのを知って、じろりと車夫の姿を見る。

格子の中から、

「若衆さんこちらへ。」

と声をかけて、女房は土間を下りた。

「ええ、こちら様で、」

車夫は、はじめてここがその住居と心着いた風である。

愛吉が、

「寄越ねえ、」

で差出した手首は、綻びた袖口をわずかに洩れたばかりであるが、肩の怒りよう、眼の配り、引手繰そうに見えたので。返事と、指図と、受取ろう、をほとんど三人に同時に言われて、片手に掴んだ蝙蝠傘を、くるりと一ツ持直したのを、きょとんとしてしたが、罷り違うと殺しそうな、危険な方へまず不取敢。