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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
すると、近間で、すりばんでしょう。私あ自分でどこに居たか知りませんがね、火の手はお宅様の見当でしょう。ほい、了った。お暇乞はもう一晩我慢をすりゃ可かったが、こりゃお見舞にも上られねえ。そうかと思やあお嬢さんと御病人きり。蔵人は忠義だって、羽ばたきをするばかり、袖を啣えて引張り出す方角もあるまいと思いますとね。矢も楯も堪りませんや。さも貴女と御新造さんが烟に捲れて赤い舌で嘗められていなさるようで、私あ身体へ火がつくようだ。そうか、といってたった今お暇乞をしたもの、と地蹈を踏みましたが、とうとう、我慢が仕切れねえで、駆けつけると、案の定だ。
まだ非常線も張らねえのに、お門にゃ、枝垂れ柳の花火が綺麗に見えましょう。柱は残らず火になったが、取着の壁が残って、戸棚が真紅、まるで緋の毛氈を掛けたような棚を釣った上と下、一杯になって燃えてるのを私あお宅を行き抜けにお出入の合ったお庇にゃ、要害は知ってまさ。お嬢さんが生命から二番目の、大事の大事のお雛様。や! 大変だ。深川の火事の時は、ちょうどお節句で飾ってあった、あの騒ぎに内裏様の女の方の、珠のちらちらのついた冠がたった一つ紛失したのを、いつも気にかけておいでなさるくらいだのに、ああ、情ない。