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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

そっとスレ違おうとしたのである。だが、あいにくな山坂である。ばしゃッと桶のうちから少し揺りこぼしたからたまらない。魯智深はぐらっと目眩にくるまれて。

「おッと、と、と、と。……こら待て酒屋、どうも貴様は不量見なやつだな。なぜこぼす」

「ど、どうかご勘弁のほどを。……お法衣でも穢しましたか」

「うんにゃ、さに非ず。穢されたいのだ。その桶の酒をわが輩に売れい」

「めッそうもない。沙門のお方に酒を売るのは御本山の法度なんで、そんなことしたら、てまえはこの土地に住めなくなります」

「かまわん。もう我慢ならぬ」

「かまわんたって、こっちには妻子もおりまする。お売りするわけにゆきません」

「えい、七面倒な」

「あ痛ッ」

軽くやったつもりだが、酒屋男は天秤棒から肩をはずして、もんどり打ッた。

一荷は倒れ、一荷は無事だった。――智深はあわてて倒れた桶から先に救いあげ、また一方も持って、軽いのと重い桶とを、両手に引ッ提げたまま彼方の見晴し台の亭へ走りこんだ。

「ほうれ、値はとらすぞ」

何を投げたのか、腰をさすッている酒屋男のほうへ、物代をほうるが早いか、彼はもう桶のフタをとっていた。