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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

しかし何ぶんごらんの如き一人の老母がありまする。あわれ母は、ひとり子の私が、唯々たよりなのでして、私もここを離れがたく、かつは師匠の羅真人さまも、どうしてもてまえを山からお手放しになりません」

「ごもっともだ。そこを強っても言いかねるが、梁山泊一期の浮沈です。なんとか、母御にご得心はいただけまいか」

「母は暇をくれましても、いま申したその師匠がどうも」

「羅真人さまへは、われら三名が膝をそろえて、お願いしてみようじゃありませんか」

「ま、よく考えてみましょう。今夜一ト晩」

「――と、仰っしゃらず、すぐご同道くださるまいか。高唐州の戦場は、はや朝々の霜。危機は冬と共に迫ッているのです。一日のまも気が気でないのでして」

戴宗もいう。李逵も拝まんばかりに頼む。ついに公孫勝は身を起した。ともあれ、師の羅真人さまの許へ伺って、そのご意見をきいた上で――と。

遠くはなかった。谷向うの峰ふところ。道をたどるうちに、針葉樹の密林低く、紅い日輪が沈みかけている。やがて羅真人の住す道教寺の石階を踏み、上を仰ぐと、山門の額に、

紫虚観

の三文字が金色もくすんで見える。

廟道は奥深い。