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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

敵の騎兵隊です。敵には特殊な騎兵隊“連環馬軍”というのがあって、その三千騎が一せいに馳け入って来たのです」

「なに、なに。連環馬軍?」

「さしも泊中での豪傑たちさえ、それには当りうる者がありません。雷横、石秀、孫新、黄信、いずれも傷を負い、蹴ちらされた兵といったら数えきれず、あの黒旋風の李逵までが」

「李逵までが」

「血まみれとなって、後陣へかつがれて行きました。ここの兵は少数、あなた方も、ひきあげねばあぶないと、呉軍師のご心配です」

「さても口惜しい。連環馬軍とはいったい何だ。まさか鬼神の騎兵隊でもあるまいに」

ともあれと、ここの者もいそいで中軍の陣地へ馳け争ッて行った。だが、中軍のいた地、すでに中軍の陣地でない。

見えるかぎりのものは、残雪の泥土と、るいるいたる死屍だった。破れた旗、いたずらに空しき矢柄、折れた鎗、すべては泊兵の残骸ではないか。そして味方の影は、さらに遠くへまで退却しているのだ。

しかもこの大打撃を与えた官軍の大蹄団は、すでに潮の如く凱歌と共に自陣へ引いてしまったものとみえる。腥風いたずらに寒く、曠野の夕風は青い五日月を無情の空に研ぎすましているのみだ。