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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「いやそうでない。わが家には、先祖伝来の秘宝があるだけに、たとえ物売りだろうが、よく気をつけてくれねば困る。わけて火の元の要心なども」
言いながら、徐寧は天井をまたふと見上げる。その愛着の容子は、常住坐臥、寝てもさめても朱革の櫃の無事から寸分も心は離れない人かのようであった。
「行ってくる」
綺羅な狩猟扮装の良人に添って、妻も階下まで送りに降りて行った気配だ。――時遷はスルスルと以前の破風の穴から這い出して、こんどは二階の窓を窺い、難なく、戸を外して中へ入り込む。動作の迅さ、まるで守宮としか見えない。
「いけねえや……案外高い」
当然、吊ってある鎧櫃なので、おいそれと、手は届かなかった。そのうちに階下で、
「眠かったろうね。旦那さまももうお出ましずみだから、おまえたちも、もいちどお寝み」
召使へいっている妻女の声がする。しまった。まにあわない。時遷はふたたび窓の外へ出て窓をたてた。果せるかな。奥方はそれから独り二階へ来て、寝台の帳を引き、やがて眠りについた様子。
「夜が明けては」
時遷、気が気ではない。ふところから何か取出した。細い葦みたいな管である。つないでゆくといくらでも長くなる。