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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
窓の隙間から内へ伸びて、その先が灯台へ近づいたと思うと、ふッと、ひとりでみたいに灯が消えた。帳の内では気がついた風もない。
それからすぐどこか暗い大地のうえへ、ポト――と何か毬でも落ちたような軽い音がした。と思われてからやや後のこと。
「火事だっ」「火事。火事」と、一ト所の声でなく、あっちこっちで「火事だ、火事火事!」
これは時遷の、みずから名づけて、“擬遠発声術”と称する奥の手。幾人もの声みたいに響き合い、それへ犬の吠え声まで交ぜてすることもある。
多くは、見つかった土壇場でやる遁走法だが、今夜の場合はそうでない。あわせて火遁法を使い、所持の油ボロを撒いて、徐家の浴室の裏、厨房の芥捨場、ほか一、二ヵ所に狐火みたいな炎がめらめら撒かれていた。
ドドドドッと、二階へかけあがった召使たちの声は口々にもう逆上っている。「奥さま、奥さま!」「たいへんっ」「お早くしないと」「焼け死にますよ」
けれど、さすがは徐寧の妻だった。
「おまえたち、あわてるんじゃありません。わたしはいい。私はいいから、旦那さまが命から二番目としているあのご宝物。あれを早く天井から降ろしておくれ」