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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

と、智深は独りごとをもらしながら、内へ入った。

「こら亭主。わが輩は五台山の坊主ではないぞ。だから心配はいらん。酒を一ぱい飲ませてくれ」

「へいへい。どちらからお越しで」

「廻国行脚の途次で通りかけた者。といって乞食坊主でもない。ほうら銀子もある。それ、そこの大碗で早くよこせ」

むさぼるごとくがぶがぶ飲んで、たちまち碗を代えること十数杯。こんどは自分から立っていって薄暗い厨房の調理台にあった兎の股みたいな烙り肉を右手に一本つかみ、それを横へ咥えかけた。

「あっ、雲水さん。そいつあだめです。坊さま向きじゃございませんよ」

「亭主。なぜ止めるのか」

「犬の肉でございますよ。なんぼなんでも」

「なに犬肉だと。いや、よろしい。犬だからとて賤しむことはない。わが輩の腹中はすなわち弥勒だ、猿であろうが鹿であろうが一視平等。豈、差別すべけんやだ、けっこう。いけるじゃないか、おやじ」

にんにく味噌を付けてたちまち骨だけを足もとへ投げ捨て、さらに次の一本を持って、

「肴ばかりじゃしようがないな。おい、そこの瓶ぐるみ持ってきてここへおけ。そいつあ黄米酒だろう。むむ、珍重珍重」

――やがて。