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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「ば、ばかな……」と呼延灼は耳もかさず「――そんなわけはない。乱軍の誤認だろう。一頭一頭鎖甲で馬体をかためている連環の鉄騎が、そんな無造作な敗をとるわけがあるものか」
「でも……」
ことばも終らぬうちだった。幕舎の附近で、一弾の砲火が、轟然と炸裂した。バッと黒い土砂を持った爆風があたりをつつみ、二弾三弾とまたもつづいて落ちてくる。
「しゃッ、こいつは凌振のしわざだ」
と呼延灼は、いななき狂う馬の手綱をしぼりながら――
「敵のとりことなった砲手の凌振めが、賊の手に加担しておるのだ。油断はならんぞ。韓滔、敵の砲陣へ、新手の連環馬陣をやって蹴ちらせ!」
すでに、敵味方の喊声は、野面を埋め、水に谺し、凄絶きわまるものがある。
その黒い潮の吠えは、南かと思えば北に揚がり、北かと思えば、東にどよめく。
おまけに、つるべ撃ちの砲撃は、ここ中軍の幕舎に集中してきて、母子砲の火の玉が、そこらじゅうを火の海にした。――母子砲とは一名を鼠弾ともいって、一弾が幾ツにも割れ、その中からまた無数の小弾や油ボロが散発するという始末のわるいものだった。
「韓滔はどうしたか?」
ついに彼は帰らない。