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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「李逵、そんなに行きたいのか」

「北京と聞いては、矢もたてもありませんや。あの有名な大名府の城市。ああ行ってみてえ……」

「それほどに申すなら連れて行ってやらぬものでもないが」

「えっ、お連れ下さるって。やっぱり呉軍師だ。話がわからア」

「だが、条件があるぞ。――第一に、道中では一切酒を断つこと、第二には、わしの童僕となって何事もハイハイと服従すること。第三……これはむずかしい。唖のまねして、決して口はきかぬことだ。どうだ、できるか」

李逵にとって、どれ一つ難題でないものはない。だが元来この男たるや、一日でも無事と退屈には居られない性質なので、一も二もなく、

「ようがす、三ヵ条はおろか何ヵ条でも、お約束はきっと守ります」とばかり誓約して、ついに呉用を承知させ、その供になって、翌る日、泊中一同の見送りをうけ、金沙灘を彼方へ渡って、北方の旅に立って行った。

幾山河、行くこと二十日余り、明日は北京の城門を仰ごうというその前夜だった。旅籠のおやじが、呉用の部屋へねじこんできた。

「お客人、どうしてくれる? おまえさんの供の童僕めが、わしんとこの若い衆をぶン撲って血ヘドを吐かせた」