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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

そこで李固が念を押したものである。

「ぜひとも、今夜じゅうに、ひとつ、首尾よくねむらしておくんなさいよ」

蔡福は、金をおさめると、すぐ立ち上がって、あっさり、こう約束をつがえて帰った。

「よし! あした死骸を取りに来ねえ」

ふくふくな気もちで、宵闇、わが家の門口まで帰って来た蔡福はそこでふとギクとした。

たれか見つけぬ人影が佇んでいる。――

それも、どうも常人でない。びろうどの黒い丸襟の服を着、羊脂の珠のかがやく帯には細身な短剣を佩いているのみでなく、金鶏の羽ネで飾られた貴人の冠といい珍珠の履、どう見ても、王侯の香いがする。

「これは。……どなた様でいらっしゃいましょうか」

「ほ。あなたが蔡福か」

「さようで。して何ぞ、御用でも」

「奥をおかり申したい。ちと、折入ってのおはなしなので」

さて、それからの一室での密談だった。みずから名のっていうその人とは、滄州横海郡の名族、遠き大周皇帝の嫡流の子孫、姓は柴、名は進、あだ名を小旋風。すなわち小旋風の柴進とは私であると、まず言って、

「幸か不幸か、性来、財をうとみ、義をおもんじ、天下の好漢と交わりをむすんで来ましたが、それがついこの身をして梁山泊の一員となる契機の因をなしていたのです。