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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「これは」
と、きもを冷やしたか、さすがの宣賛も陣を崩して逃げなだれた。
しかしそれは“新手がわり”の扇開陣かと見えもする。――蜘蛛の子と散ったうしろ側の二段の陣には、旌旗、弓列、霜のごとき矛隊が、厳然として控えていた。そしてその真ん中には、炭火のような赤い馬にまたがり、手に青龍刀の烈々たる冷光をひッさげた偉丈夫が、眼をほそめて、全戦場を見わたしている。威厳、いやその絶妙な陣容、たとえば底知れぬ深淵のごときものがあって、とても、うかとは近づき難い。
――時しも、すでに紫の夕雲が、水滸の蕭条たる彼方に真ッ赤な日輪をのんで沈みかけている。やがて、吹き渡る薄暮の暗い風のまにまに、相互とも、事なく退き鉦を打鳴らしていた。
露営の天幕には、夜の霜が降りた。宋江は、すっかり何かに感じ入っている。彼はよく人を観る。
「さすがは、漢代の功臣の末裔――」
と、一、二度ならず呟いた。
「まことに、関勝とは、聞きしにまさる武人ではある。ちかごろ稀れに見る人品骨柄」
これを、そばで聞いていた林冲は、すくなからず不愉快な顔をして、
「はて、宋統領としたことが、なんだって、敵にそんな気おくれを持たれるのか。