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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

――これを見ていた近所界隈の住民は、身の恐ろしさも忘れたように、わっと快哉の声をその人旋風の行方へ送っていたという。

ここにまた、九死に一生を得たともいえる者は、かの梁中書であった。一時は狼狽の極、あぶなかったが、李成とその部下に守られて、からくも死地を脱し、満都の火光をあとに西へ西へとやみくもに逃げ走っていた。かえって、あとに残った中書夫人や、官邸の召使いたちの方が、よほどひどい目に会っていたろう。

この夜、蔡福と蔡慶の兄弟は、家族を先に山東へ立たせたあと、軍師呉用のいる所をたずねて来て、こう頼んだ。

「軍師。北京の民に罪はない。なんぼなんでもこの犠牲は大き過ぎましょう。一般の者は助けておくんなさい」

「もちろんだ」と呉用は言った。「庶民を泣かす気などは毛頭ない。むしろこのあとは、よくなるように祈っている。もう目的は達したから、あとは、全軍に命じて、諸所の消火にあたらせよう」

かくて、夜明け方には、市中の火は、あらかた消しとめられたが、なお焔々と燃えてやまないのは、北京城の瑠璃の瓦、黄金の柱、官衙の建物などだった。

呉用は命じて、城中の財宝、穀物、織布などを取り出させ、これを罹災の民と貧民に頒けてやり、また残余の物と軍需品は、馬や車輛に積んで、梁山泊へ持ち帰った。