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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「あれだな」
燕青の眸は、任原だけしか見ていない。
さすが、ちから山を抜く、という形容も不当でなく、大力士らしい貫禄は充分だ。弟子どもに大汗を拭わせながら、床几でひと息ついている様子は、そのまま巨大な金剛像といってよい。
するうちに、弟子のひとりが、彼に何か耳こすりしていた。燕青の顔を見おぼえていた者だろう、任原は聞くやいな、やにわに、砂場の真ン中まで歩き出して来て、猛虎の吠えるようにこう言った。
「片腹痛いが、ことしは俺の牌を割った奴がある。健気な奴だと賞めておこう。あしたはきっと姿を消さずに出て来いよ」
そして、じろと、燕青の方をにらみ、大地も揺るげとばかりしこを踏んでみせた。
燕青は、さっさと、自分の宿へ帰って来た。顔を見ると、さっそくに、李逵は愚痴と不平で、とめどがない。
「もういけねえよ、もう辛抱はできねえよ、いったい、俺は何しに来たんだ」
「いや、あしたは、いよいよ奉納相撲。こんどは、柄になく、よく辛抱をしなすったね」
「じゃ、今夜一ト晩か。飲もうじゃないか」
「うん、飲むのもいいが、少しにしてくれ。はれのあしたを控えている身だ。俺は精進潔斎をしなけりゃならねえ」