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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「ちイっ……。対手にならぬやつほど恐い対手はないぞ」
智深は呟いて少し座の位置をかえた。歌う者、手拍子を叩く者、与太もンどもは、浮かれ騒ぐ。するとまた、頭上の柳の葉隠れでも、烏がガアガア啼き騒いだ。のみならず、智深の襟くびから杯の手に、またぞろ、ワラ屑みたいなものがこぼれた。
智深は癇癪をおこして、突っ立った。
「ええい、やかましいっ。この化けもの柳には、烏の巣があるとみえるな」
「相すみません。和尚さん、いま梯子を持ってきて、巣を落しますから、お待ちなすって」
「そんな手間暇がいるもんか。ここの烏も畑荒らしの一族だ。こうしてやる」
あっと、ごろつきどもは思わず嘆声をあげた。智深が法衣の諸肌を脱いだからだ。そしてその酒身いっぱいに繚乱と見られた百花の刺青へ、思わず惚々した眼を吸いつけられたことであろう。
いや、驚倒したのは、それだけではない。智深が大きな柳の幹を抱くようにして、半身をやや逆さにしたと思うと、むくりと根廻りの土が揺るぎだした。ううむっ、と智深の半裸から陽炎が立ち、大樹の親根が見え、毛根が地上にあらわれ、どうっと、大樹は根コギになって仆れた。