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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「……どうだ、拙僧の余興は」
智深は洒落のつもりらしい。だが彼はがっかりした。気がついてみると、あたりのチンピラは、烏の群れより迅く、逃げ散っていた。舌を巻いたどころの驚きでなく、恐怖に駆られ、その日の計略も忘れて街へ逃げ去ってしまったものらしい。
さすが、それからは仕返しも断念し、腹の底から慴伏したものに相違ない。以後はコソコソ影を見せても、花和尚さまだの、花羅漢さまのと、遠くから平蜘蛛になって、めったに側へ近づこうともしなかった。
「こりゃ、淋しい」と、彼は喞った。
「それに、やつらの馳走になりっ放しなのも心苦しい。よし、こんどはこっちで招いてやろう」
或る日、彼は酒肉を調えて、逆に彼らを園の一莚に招いた。大よろこびで、彼らはやってきた。こうなると、日ごろのゲジゲジも迂路鼠も青草蛇も、案外、天真爛漫なもので、飲む、踊る、唄うなど、百芸の歓を尽して飽くるを知らない。
「ところで、花羅漢さま。今日は一つ、一同におねだりがござんすが、お聞き届けくださいましょうか」
「なんだ貧乏人の拙僧に」
「たいそうお見事な錫杖をお持ちでござんすが、いかがなもンで、ひとつその、花和尚さんのお腕前を一度拝見したいって、みんなが申しておりますが」