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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
そのとき階の口に通せんぼしていた高の近侍たちを刎ねとばして、馳け上がってきた林冲が、
「悪戯者。人の妻へ、なんの真似だ」
と、いきなり高御曹司を突き飛ばした。そして、彼らが呆っ気にとられた刹那に、妻の体を引っ抱えて、さっと廻廊の角まで身を避け、次に彼らがどんな陣容を盛り返してかかってくるかと、身構えをとって睨んでいた。
しかし、相手の群れは、事の不意に度胆を抜かれてしまッたか、ただちに復讐に出てきそうもない。
「……や。林師範だぞ」「豹子頭か」と、小声をかわしていたと思うと、たちまち、どどどっと階段を降りて、高御曹司を、白馬金鞍の上に奉じ、まるで落花を捲いた埃のように逃げ去った。
新家庭の林家には、あれからというもの、何か気味のよくない暗影に忍び入られて、あわれ鴛鴦の夢も、しばしば姿の見えぬ魔手に脅かされ通していた。
それみな、高御曹司の陰険な迫害と、執拗な横恋慕とはわかっている。が、わかっているだけになお恐ろしい。相手は殿帥府の最高官の部屋住み。こちらは軍の一師範。どうにもならぬ。
「女房。気をつけてくれよ、わしの留守にも、外出にも」
「いいえ、この頃はもう、買物にも錦児ばかりやって、私は外へも出たことはありません」