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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「わッ、こりゃ深いっ」
亀を除いたあとに、大穴があいた。穴は深さ万丈、奈落へ通じるかと思われた。いやいや、伏して覗いてもいられない。とたんに、地軸の底で、ぐわらぐわら、百雷に似た物音なのだ。洪大将も、人々も、
「あ――」と、耳をふさいで、のけぞッた。そも、なんであろう。すべて一瞬のことである。醒々冷々たる墨のごとき濛気が、ぶっ仆れた面々の上をかすめた。
無色無臭、濛気は見えない。が、穴の底から、噴き出しているのはたしかだ。魔の跫音、魔の笑い声、魔のどよめき、そういっても、まちがいではない。ごうごうの地鳴りは鳴りやまず、一震四壁を裂き、また、山を震ッて、このため、龍虎山の全峰は吠え、信江上饒の水は、あふれ捲いて、麓を呑むかと思われるほどだった。
「……ああ、これはまた、ど、どうしたことだ」
洪は、無我夢中で、石窟の外へ、逃げだしていた。いや、なにかに刎ねとばされて、魔耶殿の橋廊の下まで抛り出されたといった方が真実に近い。
とにかく、やや気がついたときでも、なお石窟は揺れ鳴っている。そして一とすじの尾を曳いた黒雲が、中天に昇ってゆくのを仰いでいると、一閃の赫光が眼を射、とたんに、無数の妖星と砕け散って、世間の空へ八方飛んでわかれてゆくのが見えた。