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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

ついつい、十数日はいつか歩いてしまった。殺意もこう念入りでは、機会もなかなかつかめない。

「オイ、薛」と、端公の一人が、もう一人の董へささやいた。

「毎日毎日、これじゃあ容易にラチはあかねえぜ。なんとか、そろそろ手を下さねえと」

「わかったよ。いちどに息の根をとめようとするから難しいんだ。あしたからは、林冲の足をあの世へ向けて、冥途の旅の一里塚を一ツ一ツ踏ませてくれる。そのあげく、ばッさりやりゃあ、なんの仕損じることがあるもんか」

その晩。――山の旅籠につくと、端公の薛は、いち早く、裏口へ廻って湯玉のたぎるような熱湯をたたえた洗足盥を抱えてきた。

「おい、林師範、これで足を洗うがいいぜ。疲れた足は、よく湯に浸すに限るんだ。夜もよく眠れるからな」

「や。これはどうも」

「なんだい。ははあ、首カセが邪魔になって、うまく体が屈めねえんだな。よしよし、おれが草鞋を解いてやる」

「とんでもない。お役人が囚人の足の世話なんぞを」

「いいってことさ。まア出せよ足を。……都じゃそうもいかねえが、長途の道づれ、なんの遠慮がいるもんかね」

親切ごかしについ乗って、林冲は、それが熱湯とも知らず、うッかり盥のなかに足を突っこんだ。