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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「――どうです洪先生。日ごろは宅の若いもんや田舎剣者ばかりがお相手で、せっかくの神技も振う折はありますまい。ここに禁軍の前師範林冲どのが見えられたこそ、もっけの倖せ、一手の試合をおためしあってはいかがです」
「むむ。それは面白そうな」
待ってましたと言いたいところらしいが、洪先生は重々しく構えこんで、じろと林冲のほうを見た。
「異存はござらんが、なにぶん、それがしの剣たるや、仮借の相成らぬ強剣だ。それご承知の上なれば」
「林冲どの。洪先生はああいうが、あなたの方は」
「さ。拙者の棒術は、お見せするほどの妙技ではありませんが」
「では、庭上に出て、願おうか」
ここで、よろこんだのは、二人の端公だった。洪先生が大剣を払って、月下の庭に立ったのを見たからである。もしその大剣の一颯の下に林冲が敗れ去れば、手濡らさずで自分たちの目的も達しられる。――そう考えて、満場の人々の興味とはべつな固唾をのんでいるていだった。
ところが、月下の試合は、一瞬にして、林冲の勝利に帰してしまった。
彼は、棒をとって、立ち向ったのだが、戛然、白刃と棒が相搏ッたと思うやいな、どこをどうして打ち込んでいたのか、誰の眼にもとまらなかった。