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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

無法者のとりで梁山泊の事。なら びに吹毛剣を巷に売る浪人のこと

矢うなりは水に響いて長い尾を曳き、その行方に、一群の鴻がバッと舞い立ったと思うと、やがて一艘の早舟が、芦荻の波間をきって、こなたへ漕ぎすすんでくるのが見えた。

無法者のとりで梁山泊の事。なら

びに吹毛剣を巷に売る浪人のこと

梁山泊は正確に周り何百里とも見きれず、号して当時八百里(支那里)といわれている。風浪の日はおそろしいが、晴れた日は、山をめぐる白雲、太古の密林、そして、目路のかぎりな芦の州から葭の汀とつづいて、まるで唐画の“芦荻山水”でも見るような風光だった。

ところが、ここには、宋朝の世に容れられぬ反骨の徒、不平の輩などいつか何百人群れよって山寨をきずき、公然、時の政府に抗して義盗ととなえ、舟行や陸の旅人などをなやましていた。従来しばしば取潰しにかかった官軍といえど、生きて還った例がない――と、までいわれている巨大な“無法者地帯の浮巣”だったのだ。

「――なるほど、これでは」

その日、朱貴(茶亭の亭主、実は山寨の一員)が呼んだ早舟に乗せられて、対岸の金沙灘で舟を下りた林冲は、行く行く、その要害には舌を巻いた。

芦荻と芦荻の間は舟の迷路をなし、陸の道は迷宮を行くにひとしい。