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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
――それも百姓漁夫の首ではいけない。役人なり然るべき武士の首だぜ」
「心得た」
夜は山寨の宛子城で、彼は客としての歓宴に囲まれた。けれどその酒宴中でも、王倫の態度はどこかよそよそしい。林冲も彼の人物を観て「……ははあ、この人は嫉妬ぶかくて、狭量らしい。自分のごとき前歴の人間をここに置いて、将来、首領のお株を奪られでもしてはと、惧れているに相違ない。そんな小人の下にはいたくもないが、さて、天下ほかに身のおくところもない身だし……」と、独り愉しまぬ色をつつんで、三日以内の約束を、観念していた。
次の日、彼は身仕度して、長巻の野太刀を一本ひッ提げ、道案内の雑兵に舟を漕がせて、山東済州街道に渡った。
第一日は、人にも会わなかった。
二日目は雪晴れの好晴で、「――今日こそは」と、路傍に潜んだり、林の中をカソコソと彷徨っていたが、見かけたのは、黄昏れごろ、家路へ帰ってゆく貧しげな漁夫と、子供づれの百姓夫婦だけだった。
「限られた日は、あと一日きりだが」
疲労と焦躁に、林冲の眼は、すっかり獣じみていた。すると昼少し過ぎ、その眼にとまった一個の旅人がある。――やや勾配の急な雑木山の道を、大きな旅梱を担いで、こなたに降りてくる人影なのだ。