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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「これまでどこに赴任してみても、およそ吏として、民を安んじ民と和楽をともにするということはじつに難かしい仕事だと痛感しておるが、わけてこの県は難治な地方と思われる。なぜなれば、大盗の巣窟、梁山泊などの水郷もあって、旅途はさびれ、土民の気風も荒く、そのうえ日々聞ゆる兇悪な犯行にさえ、従来、官の実績は何もあがらず、官は無力なものと、民からも悪党からも見くびられておる」
全員はしいんとしていた。みな面目ないふうである。が、列の中ではそれが不服らしく満面をムズムズ燃やし、耳を押ッ立てて聞いていた巨漢二人の顔があった。
いずれも、庁の与力、つまり捕手頭である。
その一人は、騎兵捕手の与力で、名を朱同といい、あだかも関羽のような髯をもっているので“美髯公”という綽名があった。
また、もう一名の歩兵与力は、これも身の丈七尺をこえ、人なみはずれな腕力に加えて、およそどんな土塀もちょっとした小川も一跳躍にとびこえる特技のあるところから、県中、この人を“挿翅虎”ともアダ名している雷横という者だった。
こう二人は、新知事の訓令にもどこか反撥的な面構えをみせていたので、文彬はその眼気を感知し、微笑を見せながらすぐ次へ移っていた。