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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

霊官廟じゃあ、寝込みで是非もなかったが、いまはちッと俺さまが違うぞ。いわれもねえ縄目の返礼だ、雷横、覚悟っ」

振りかぶってきた野太刀の迅さ――。雷横はかわすひまもなく、腰の官綬刀を抜いてバシッと受けた。そのまま打々発止と火花の間に斬りむせび合うこと数十合――。

わっと騒ぎ廻る捕手たちが、横から手を出す一瞬のすきもない。

「こんな小僧っ子」――雷横は闘いつつ、まわりの部下へ、豪語した。「――おれ一人でたくさんだ。手を出すな。遠巻きに見物していろ」

しかし、結果は、彼の大言の通りにゆくかどうか、なんともいえぬ形勢に見える。

雷横の刀術に、鳳の概があれば、赤髪鬼の野太刀にも、羽を搏つ鷹の響きがあった。赤髪の影が旋風に沈めば、迅雷の姿が、彼の上を躍ッて跳ぶ。――いずれにも、流儀があり、技があり、法にかなった秘と秘の術競べとはなったので、この勝負、いつ果てるともみえなかった。

だが、雷横の部下たるもの、もう見ては、いられない。

「――あっ、お頭があぶないッ」

誰かが叫ぶ。

同時に、どっと助太刀にうごきかけた。

ところが、すでにその寸前、街道わきの緑蔭静かな一戸の垣の網代戸から、さッと走り出てきた田鶴のごとき人品のひとがある。