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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「待たっしゃい。あいにく、授業の日だが、壁書を残しておくから」
呉用は、一たん家の内へ入った。婆やに何かいいつけ、また、筆を取って、サラサラと書いた一紙を、学童の眼にふれやすそうな教室の壁に貼りつけておいて、
「これでよし。これでよし。さあ、晁蓋どの、同道しようか」
と、外へ出てきた。
晁蓋が、ふと、立ちよどんだのは、呉用が壁に残した貼り紙の文句に、気をとられていたからだった。子供にも読みやすいように、それにはこう書かれてあった。
先生ハ今日
急用デ、オ留守
素読ハ オ休ミスル
オ習字ハ 家デヤルコト
遊ブ者ハ
蛙ト遊ベ
河ヘ落チルナ
相談事も、事によりけり、というものだ。
北京の梁中書から、都の蔡大臣へ、誕生日祝いに送る時価十万貫のものを、「奪うべきか。見のがすべきか?」また。「――奪うとしたら先生には、どんな奇策がありましょうか?」とは、いかに、今孔明の称ある智多星呉用先生でも、おいそれと、返辞ができたものではあるまい。
人を遠ざけた晁家の書楼の一室。
「……じつは」
と、声をひそめて、主の晁蓋から、今暁の事の次第、劉唐の本体、またその劉唐が持ちこんだところの情報などを、審かに打ち明けられて、さすがに呉学人も黙考、久しい体だった。