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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
単純むしろ愛すべく、野性、憐れむべきであるが、なお人間らしき人間たる、真性だけは失っているものではない。
これを捨てず、これを刑せず、もし愛情と同鬱の友となって、よく用い、また善導しつつ、いまの糜爛社会に何らかの用途と生きがいをも与えて、ともに、世を楽しむ工夫はないものか。……あれば、宋朝治下の塗炭の民土に、一颯の清風と、一望の緑野を展じるものと、望みをかけ得られないこともないのだ。
「……晁蓋どの」
やっとその沈思から面をあげた呉学人は、
「おやんなさい。智恵も貸しましょう」
ぼつんとだが、一語は明晰に、また断の力がこもっていた。
「えっ。ではお智恵も貸してくださいますか。じつは昨夜、妙な夢を見ましてね」
「どんな夢を」
「北斗七星が、てまえの屋敷の棟へ堕ちてきた夢です。変な、と思っていたら今暁の出来事……吉か凶か、判断に迷っていましたが、先生のおことばで、力をえました」
「だが、わしがやめろといっても、怖らく思い止まるまい」
「ご明察どおりです。この晁蓋にすれば、なにも危ない橋は渡らずとも、家代々の荘院、食うにも着るにも困る身じゃございません。けれど、いまの世を見渡して、どうにも、腹から愉しめぬものが、日ごろ、もやもやしていたもンです。