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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

この真ッ昼間に、そんな幽霊が出るもんなら、おもしれえ。なにも経験だ、お目にかかってみようじゃねえか」

「馬鹿野郎っ」

楊志は、怒りの一歩を、そっちへ移して呶鳴りつけた。

「きさまらは、泣き言まじりの口癖にさえ、こんな苦役も、女房子のためだと吐ざいているではないか。もし厄難に出あったらどうするか。褒美はおろか一命もおぼつかないぞ。――このほうは宰領として、万が一にも、そのような不覚を踏ませてはと、しいて心を鬼にしておるのだ。わからんか。慈悲のムチが」

「へへん。……わかりませんねえ、慈悲のムチなんてえ文句は」

「こやつ!」

楊志が本来の形相を現わして、腰なる山刀を抜きかけると、執事の謝は仰天して、あわてて彼の前を阻めた。

「待った! 楊君もいいが、どうもお若い。そのご短気は、みずから事を破るものだ」

「いや、お放しなさい。こいつらは、拙者がほんとに怒ッたら、どんなものか知らんのだ。見せしめのため、どいつか一匹、素ッ首をぶち落して見せてくれる」

「そしたらその先、一人分の行嚢は、いったい誰が、背負って歩くのか。わしは真ッ平ごめんじゃが」

「一箇の荷ぐらいは、どうにでもなる。