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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

それよりは全体の士気を厳に保って行くほうが肝腎だ。老人は、黙ッていなさい」

「いや、見ていられん。血気いちずで、十五人もの心の束ねがなるものか。和もなくてはならぬ。いかんせん、楊君はご苦労知らずじゃ」

「ばかをいえ。拙者にはいささか流浪の経験もある。四川・広西・広東の旅もした」

「ただの旅なら、誰もするわ」

「なんの、世は今や、いずこも暗黒同様な末世だ。その穏やかならざる乱麻の世間に、流浪の艱苦もなめたつもりだ」

「おい、楊輸送使」

「なんです?」

「人なき山中だからいいようなものの、余りな放言は慎むがよい。梁中書様のご恩になり、北京府の禄を食みながら、いまが末世とは何事だ。泰平の世でないとは、なんたる言か。その舌を抜かれるなよ」

これには楊志もハッと答えに詰った。

日ごろ、胸にあるものは、何かの弾みには、我れともなく、つい口に出るものではある。――と、悔いられたが、もう追いつかない。せっかく、蔡大臣の生辰綱輸送の大役を果たしえても、後日、謝の口からそんな讒訴を堂上の耳に入れられたらすべては水の泡だろう。――しまった、と臍を噛んだ容子が、突嗟だったが、楊志の面をやや弱いものにした。