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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

これがなかなかの役者だった。すなわち、酒売り男に扮して好演技を見せた男で、この黄泥岡の近村に住む白日鼠の白勝という遊び人なのである。日頃、晁蓋に目をかけられていた縁から、一味の足溜りとして、白日鼠の家が選ばれ、彼も一ト役買ってでたというわけ。

そこで、次には。――麻痺薬の使われた手順だが、これがまた、すこぶる手のこんだ筋書だった。

事の初め、まず七人が、一つの桶を、空にした。そして、銭を払った。

その隙に、べつの、も一ツの桶のフタを開け、無断で椀に半分飲んだのが、赤髪鬼の劉唐だ。

劉唐が逃げる、酒売りの役の白日鼠が追ッかける。

その留守に、

残る組が、また無断で、あとの桶の分を、争ッて飲みかける。或いは、飲んでみせる。

酒屋の白日鼠、仰天して戻るやいな、絡み合いの争いと見せ、それを潜って、呉用先生が、すばやく、麻痺薬を椀に入れ、その手で、桶の酒を汲もうとする。――この瞬間、手品のごとく、毒はすでに桶じゅうの酒に、掻き廻されていたものだった。

あとは、同勢わッと逃げる。奪った椀を、酒屋が投げつけて罵り散らす。これで計略の筋は終っていたもので、後世、名づけてこの一場の劇を“生辰綱の智恵取り”といったものだった。